嫌な名前。
ほんとにまぁ、誰が考えたんだろうね、この名前。
「上の子可愛くない症候群」
私は長子なので、これはきっと私のことなんだろう。
幼少期の記憶もある。
字面を見るだけで、嫌な気持ちになる。
よくもこんな重たい名前をつけたものだと思う。
でも実際、自覚はある。
あーー、私、可愛くなかったんだな。
下が生まれてから、明らかに怒られる回数が増えた。
今思えばそれは「上の子可愛くない症候群」だったんだろうけど、当時の私にそんな理屈は分からない。
ただ、「なんで自分だけ」という反発心だけが募って、あまのじゃくになっていった。
そのままこじれた関係は、今に至るまで戻っていない。
だから私は、自分がされたことを、自分の子にはさせたくないと思った。
そして自分が母親になってからも、上の子に対して同じような違和感を覚えたことがある。
あんなに可愛かったのに!!
あんなにも、世界で一番可愛かったのに!!!
なぜ!!!
生まれたときはあんなに全身全霊で愛おしかったのに、いつの間にかその感覚が薄れていく。
自分でも理解が追いつかないまま、気づけば
「あれ、私、今もこの子のことをちゃんと可愛いと思えているんだろうか」
と自問する瞬間が増えていく
下の子が生まれると、かわいい。
とにかくかわいい。
かわいい赤ちゃん。
もうね、可愛いだけ。
理屈も何もなく、存在そのものが可愛い。泣いていても、寝ていても、ミルクを吐き戻していても、可愛い。
それに比べて上の子は、ある程度のことができてしまう。
もちろん年の差にもよるけれど、下の子よりはできる。
うちは7歳差だったので、みやこさんは、もう、ほとんどのことが自分でできてしまう。
でもまだ7歳!!←ここ!!ここを見落としているのだ!!!
「もう7歳なんだからできるでしょ?」と、甘えられるたびに微かに思ってしまう。
言葉にするほどでもない、心の奥でちらっと過ぎるだけの小さな苛立ち。
でもその小さな苛立ちが、積み重なっていく。
だってあなたに比べたら、下の子は何もできない。
私がいなければ死んでしまう。
そのくらい、圧倒的に無力な存在。
守らなきゃいけない存在だから。
その「守らなきゃ」という感覚が、そのまま愛おしさに直結してしまう。
そして、娘が学校へ行って帰ってくると、匂いが違う。
幼稚園の頃からずっとそうだ。
我が家とは違う匂いを纏って帰ってくる。
それは子どもの成長として、本来はとても良いことのはずなのだ。
外の世界に触れて、自分の場所を広げていっている証拠。喜ぶべきこと。
なのに私は、「私、いらないよね」と、卑屈になってしまう瞬間がある。
娘が自分の足で歩いて、自分の世界を持ち始めているのに、それを素直に喜べない自分がいる。
むしろ置いていかれるような、必要とされなくなっていくような、寂しさにも似た感覚に襲われる。
母も必要とされたい。
きっと、母も必要とされたいのだと思う。
24時間、誰かに完全に依存されて、頼られて、「あなたがいないとダメなんだ」という感覚。
それが産後の、特に赤ちゃんを育てている間の、ある種の存在意義になっている。
産後でメンタルもバグってるから。
ホルモンバランスも崩れてるし、寝不足だし、余裕なんてどこにもない。
そんな状態で、「自分がもう必要とされていないかもしれない」という不安に晒され続けたら、それはもう防衛本能として、上の子から少し心を離してしまうのも無理はないと思う。
その 正体は「嫉妬」
なので、私が思う「上の子可愛くない症候群」の正体は、「嫉妬」かなぁと思う。
上の子に対する嫉妬。
自立していく姿への嫉妬。
自分の手を離れて、自分の世界を持っていくことへの嫉妬。
「私がいなくても大丈夫」になっていくことへの嫉妬であり寂しさ。
そして何より、「かつて自分がすべてだった存在」から、少しずつ卒業していくことへの、寂しさを伴った嫉妬。
赤ちゃんは、まだ何も持っていない。だから全部与えられる。
全部注げる。
でも上の子は、もう色々なものを自分で持ち始めている。
友達、先生、外の世界の匂い。それを「奪われた」ように錯覚してしまうのかもしれない。
本当は、奪われているわけじゃない。
ただ、育っているだけ。
でも産後で余裕のない心には、その当たり前のことがなかなか届かない。
こんなに可愛かったのに。
今も、可愛いはずなのに。
そう思いながらも、素直にその可愛さを感じられない自分に、一番戸惑っているのは、たぶん自分自身なんだと思う。
2人目、ひーくんを産んでから8年後
末っ子のちぃちゃんを産んでから5年後のことだ。
私はだいぶ正気を取り戻した。
やはり最終出産から5年は心身ともにおかしいというのがよくわかる。
あの頃あんなに卑屈になっていたのが嘘みたいに、長女を溺愛している。
やっぱり可愛くて可愛くて仕方がない。
「上の子可愛くない症候群」なんて、もう自分の中には欠片も残っていない。
結局あれは、期間限定の嫉妬だったんだと思う。
産後のホルモンと余裕のなさが作り出した、一時的な心の狭さ。
永遠に続くものじゃない。
だから今、渦中にいる人に伝えたいのは、「ずっとこのままじゃないよ」ということ。
正気は、ちゃんと戻ってくる。
何度もいうが、産後は心身ともにまともではない。
それからさらに数年が経ち、今、みやこさんは18歳になった。
当時7歳の娘が、母を求めないわけがない。
未だに「ママ〜ママ〜」と連呼している。
……あの頃、「もう7歳なんだから」と思っていた自分に、今なら言いたい。
お前はあほかと。
産後のメンタルとは、実に恐ろしいもの。
『もう7歳』という思い込みが、まだたったの『7年』しか生きていない子供の幼さをも塗りつぶしてしまう。
まだまだ母親の手を離せるはずがないのに。
みやこさんは18歳になっても変わらず「ママ」を求め続けてくれる。
求められなくなる日を勝手に恐れていたけれど、そんな日はまだ来ていない。
結局あれは、期間限定の嫉妬と恐怖だったんだと思う。
産後のホルモンと余裕のなさが作り出した、一時的な心の狭さ。
永遠に続くものじゃない。
だから今、渦中にいる人に伝えたいのは、「ずっとこのままじゃないよ」ということ。
あなたの正気は、ちゃんと戻ってくる。
産後5年以内なら、その感情は幻。
そして子どもは、あなたが思っているよりずっと長く、あなたを必要としている。

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