スカウトです。
昔、家族で行ったとあるテーマパーク。
そこに占いの館があった。
占いって、正直怪しい。
私の人生に占いはあまり浸透していない。
しかも、うっすら見える中の人は美人。
でも行ってみたい。
と、軽い気持ちで長女みやこさんを座らせ、鑑定してもらう。
特攻隊長である。
……あれ?
待って待って??
めちゃくちゃ当たってない?
そうなんです、この子、ぽやぽやしてるけど芯の強いしっかりした子なの。
よくぞわかってくださいました。
隣で見ていた私の好奇心は一気にマックスまで跳ね上がった。
「私も私も!!私も見てほしいですっ!」
そして自分の手を出した瞬間から、事態は予想外の方向へ転がり始める。
「え? なんでそんなことまで知ってるの?」
開口一番、プライベートの核心を突くような言葉が飛び出す。
驚きを通り越して、怖くなる。
それと同時に、夫も一緒にいたので、夫と出会う前のことは言わないでと念を送る。
ほんとうによく当たるの。
風邪が長引きやすいとか、私が飽き性の理由とか、ガラスのハートの意味とか。
特性とその意味を伝えてくれるのが新鮮だった。
裸を通り越して、内側の内側まで見られている。
「手相って……ほんとうにすごいんだ……」
生まれて初めて、心の底からそう実感した瞬間だった。
しかし、ほんとうの衝撃はそのあとにやってきた。
鑑定の最後に、その手相家の先生は、私の手をぎゅっと握ったまま離さない。
そして、まっすぐな瞳でこう言い放ったのだ。
「あなた、手相家になりなさい」
すっと差し出された名刺。
「いつでも連絡してきなさい」
あまりの急展開に、私の脳内はプチパニックである。
どうせこれ、客引きの常套句で、誰にでも言ってるんでしょ?
傷つきやすいガラスのハートを持つ私は、心の中で全力で防御壁を張った。
そんな甘い言葉にノコノコと乗せられて弟子入りでもしようものなら、気づけば「その他大勢の15番弟子」のひとりに成り下がっている未来しか見えない。
そんなの、絶対にい・や・だ!!
「騙されないぞ、私は冷静だ」
帰宅後も警戒心は解けず、最初の1週間はすっかりその気がないふりをしていた。
それからさらに1週間が過ぎた頃。
モヤモヤした気持ちを抱えきれなくなった私は、夫にポロっと相談してみた。
「ねえ、夫はどう思う?」
返ってきたのは、意外すぎるほどフラットな一言だった。
「これも何かの縁だし、いただいたご縁をつないでみるのも面白いかもね」
その言葉を聞いた瞬間、安堵した。
そう、安堵だったのだ。
そうだね。
面白いかもね。
そう思ったが最後、気づいたときには、私の指はすでに携帯のボタンを押していた。
まだスマホのない時代。
ボタンを押すのである。
これが、私の「手相家」としての人生が幕を開けた、記念すべき運命の瞬間である。
それから1週間後。
真冬の寒い日に、車で1時間かけて、あの占いの館へ向かった。
運転しながら、頭の中はずっとこの調子だった。
「やっぱり断ろうかな」
「騙そうとしてるんじゃないか」
「行ったら高額な壺を売りつけられるのでは……」
疑いは、走るほどに強くなる。
それでも、車は館のほうへ向かっていた。
到着して、美人先生は私の顔を見るなり、さらっとこう言った。
「電話してくると思ってたわ」
……え?
ちなみに、その手相家の先生、のちに私の「師匠」となる人は、とにかく強烈なインパクトの持ち主だった。
まず、モデルのように長身で、驚くほどお綺麗。
そして、歯に衣着せぬはっきりとした物言い。
なかなかの「変わり者」だった。
「弟子が山ほどいて、雑用ばかりさせられたらどうしよう……」
弟子に弟子入りしたわけじゃないんだよ!
と、そんなビクビクした心配は、良い意味で木端微塵に打ち砕かれることになる。
なぜなら、その師匠、そもそも普段は誰もスカウトしない人だったからだ。
声をかけられても「弟子は取らない」と頑なに断り続けてきたのだという。
私が、唯一のレア弟子だった。
後に、師匠はあの日の出会いを懐かしそうに振り返り、こう教えてくれた。
「あのときあなたの手を触った瞬間ね、昔、自分の旦那と付き合っていたときに感じた手の感触と、全く同じものを感じたのよ。だから、『あ、この手は離してはいけない』って、直感が告げたの」
師匠……
ロマンチックな秘話を聞かせてくれて大変恐縮ですが。
師匠、そのあとわりかしすぐに離婚したよね?
師匠の力強い美貌と、一枚の離婚届が、私の脳裏でひとつに溶け合った。

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